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土壁の家づくり

2022.12.27

すっかり年末になってしまいましたが、今年余市で建てたドメーヌアツシスズキの鈴木淳之さんのご自宅のレポート。

さかのぼる事、昨年の秋。鈴木さんから、室内の仕上げを浦河の左官職人の野田肇介さんにお願したいとのお話を頂きました。
鈴木さんと私、工務店の福嶋さんと野田さんのアトリエを訪ね、打合せを重ねて参りました。

進むうちに、敷地の土は野田さんが得意とする「土壁」にとても適していることが分かりました。

元々そこにあるもので空間をつくるというロマンあふれる試みに思いを馳せながら、私たちの土壁の家づくりが始まりました。

浦河の野田肇介さんのアトリエ。様々な作品と無数の見本が並ぶ。
一口に左官と言っても土や漆喰、仕上げ方も鏝・洗い出し・磨き・たたきなど多種多様。
外には耐候試験のサンプルなどもあり、アトリエというよりも研究所。

無数の見本を元に解説を受ける。彼の仕事へ情熱と、誠実さが伝わってくる。

左官の技術・表現力もさることながら、とても共感を抱いたのは自然の素材がもつ本質的な力についての考え方。
人間はきちんとしたものでつくられた空間の中にいると、不思議と人工物との違いをはっきりと認識できる、と野田さん。

土や石灰だけでなく、添加材料も天然の物。藁スサや、糊の役目をする銀杏草などの海藻。
左官材料として使えるように、何日も手間をかける。

いよいよ基礎工事が着工し、根掘りで出た土を左官用によけてもらう。

土の準備は僕と鈴木さんの担当。必要な土の量は、ざっと計算して約1トン。
当然このままでは、小石や草など不純物が混ざっていて左官材として使えない。
細かく砕いて、ふるいにかける必要がある。

事務所に持ち帰り、天日で乾燥させてみる。
非常に粒度の細かい粘土で、ハンマーで簡単に砕くことができた。

ただ問題は、1トンもの量をいかに効率的に乾燥+粉砕させるか。
このころ、僕の頭の中は粘土の事でいっぱい・・・。

野田さんにもアドバイスをもらい、色々試行錯誤した結果、たどり着いた方法がこれ。

工事用の敷鉄板は夏場、日光で高温になる。そこに土を薄く広げて乾燥させる。
乾いたら、砕石の転圧に使う「プレート」で振動を掛けながら砕いていく。それをふるいにかけ、袋に小分けしていく。
ふるいに残った粘土もせっかく乾燥しているので、2、3回は再度粉砕して、また振るう。

土の仕込みは、僕と鈴木さん、相棒の中澤君にも手を借りて、交代で行った。
しかし、暑い日でなければ土の乾きも悪いので、なかなかペースが上がらない。
乾ききっていないとむしろプレートで固まってしまうので、一日に作れる量には限界があることが分かった。

特製のふるいは大工の福嶋さんが現場でこしらえてくれた。
市販品の網目は細かくてせいぜい1分(約3mm)だが、こちらはさらに細かい5厘目(約1.5mm)。
それゆえ中々ふるいを通ってくれないが、細かいほど仕上がりは繊細で美しくなる。
試作を野田さんに送って、お墨付きをもらった時はうれしかった。

炎天下でもくもくと振るってくれた中澤君。熱中症にならなくてよかった。

元が掘削土とは思えない、サラサラできれいな粘土。

6月からはじめて、気が付けばもう9月・・・何とか目標の数量を作ることが出来、一安心。

秋になり、野田さんたちが浦河から到着。現場で見本を見ながら最終打合せ。
下地は福嶋さんに所定の倍以上のビスを打って頂き、足場なども万全に協力してくれた。

いよいよ土壁の施工がスタート。
LDKやホールは野田さん独自の施工方法、和室は表情を変えて鏝で跡を出して頂いた。
一般的な塗り壁よりもはるかに厚い5、6mmを数回にわけて仕上げてゆく。

水で溶いた固まる前のタネは、雨の日の粘土そのもの。水で溶けば何度でも使えるし、文字通り土に返ってくれる。
「これだけの水を使ったという事は、これだけ水分を蓄えてくれる壁なんだよ」と、野田さんが土壁の調湿性についても説明してくれた。

1回目の工程を終えた2階ホール。
不均一で自然な、土の色のコントラスト。言葉では言い表せない。

最終的に仕上がったLDKと玄関。
畑の地面と同じ色・同じ匂い・同じ空気の居住空間。お世辞抜きで、素晴らしい。
農夫でもある彼らにとって、これほど体に負担のかからない仕上げは無いだろう。

さらに1階のトイレは、ゲストも使う特別な空間として、野田さんが神髄をみせてくれた。
鈴木さんのかねてからのご希望で、カルチェラサータというイタリア伝統の磨き漆喰。

「髭剃り跡」と呼ばれるこの技法、何度も工程を重ね、漆喰とは思えない光沢と独特な模様が浮かび上がる。
天然の鉱石ラピスラズリを原料にした神秘的な色彩。やはり左官は奥が深い。

・・・今回、野田さんにご協力を頂いて完成した建物は、人が頭で考えた正解ではなく、自然の力に委ねるというアプローチです。
鈴木さんの作るワインが酵母の力を借りるように、日々の暮らしにもそんな考え方を取り入れられればと、考えを巡らせてしまいます。

大変、思い出深い現場になりました。

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